スター・ウォーズ エピソード1考察|ポッドレースとダース・モール戦の魅力

『ファントム・メナス』を思い出すとき、政治の話より先に、あのエンジン音が聞こえてくる。ポッドレースの機体が走り始めた途端、ややこしい事情はいったん脇へ追いやられて、少年の乗った小さな機体を目で追ってしまいます。

本作は、シリーズの中でも好みが分かれる一本です。通商問題や元老院の話が難しく感じられたり、ジャー・ジャーの賑やかさが合わなかったりすることもあるでしょう。それでも、まだ知らなかった銀河の街や乗り物に出会う楽しさと、熟練したジェダイの身のこなしには、何度でも観たくなる魅力があります。

この記事では、ポッドレースやダース・モール戦の面白さを、具体的な場面からたどります。模型とCGを組み合わせたナブーの街、日本の文楽をヒントにしたC-3POの操演など、次に観るときに確かめたくなる撮影秘話も紹介します。

前半は核心的な結末を伏せて紹介します。「ネタバレ考察」以降は本作の結末に触れます。シリーズ未見の方は、各作品の考察部分と予告映像の視聴順にご注意ください。

あらすじ

銀河共和国の時代。通商連合によって封鎖された惑星ナブーへ、ジェダイのクワイ=ガン・ジンと弟子オビ=ワン・ケノービが派遣されます。交渉は決裂し、二人はアミダラ女王とともに星を脱出することになります。

船の修理のため立ち寄った砂漠の惑星タトゥイーンで、一行は機械いじりとレースが得意な少年アナキンに出会います。彼の力に可能性を感じたクワイ=ガン。しかし、ナブーの危機の背後では、ジェダイが長く姿を見ていなかったシスが動いていました。

基本情報

作品名スター・ウォーズ/ファントム・メナス(エピソード1)
原題Star Wars: Episode I — The Phantom Menace
製作年1999年
製作国アメリカ
監督ジョージ・ルーカス
主な出演者リーアム・ニーソン(クワイ=ガン)、ユアン・マクレガー(オビ=ワン)、ナタリー・ポートマン(パドメ)、ジェイク・ロイド(アナキン)
音楽ジョン・ウィリアムズ
ジャンルSF/アクション/アドベンチャー

『ファントム・メナス』の見どころ3選

1. ポッドレースは、機体の不調まで気になってしまう

スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス 日本語公式予告編。ディズニーの日本向け公式チャンネルによる映像。予告編には本編の場面が含まれます。YouTubeで見る

このレースのよさは、ただ速いことではありません。コックピットが小さく、前方にはむき出しのエンジンが二つ。乗り物の形を見ただけで、速そうだし、壊れたら終わりだと分かる。難しい設定を覚えなくても、アナキンの危なっかしさに手に汗握ってしまいます。

アナキンが一気に追い上げる瞬間も気持ちいいのですが、機体の不調を抱えながら立て直す時間があるから、ようやく加速できたときの爽快感が増します。才能があるという台詞より、自分の乗り物を直しながら走る姿のほうが、少年の強さをよく伝えてくれる。

音響と編集を担ったベン・バートは、ルーカスが『ベン・ハー』の戦車競走を意識していたと公式インタビューで説明しています。宇宙の乗り物でも、応援する相手を決めて息を詰める楽しさは昔の冒険映画とつながっているのです。

管理人
レースの順位を追ううちに、いつの間にか機械の調子まで気にしているんですよね。「速い子」ではなく「この子なら何とか直せるかも」と応援してしまう。あとで彼の進む道を知るほど、この器用さと無邪気さが切なくなります。

2. 太陽の光と精巧な模型が、ナブーの街を本物に見せる

ナブーの宮殿のロケ地となったカゼルタ宮殿の大階段。映画本編ではなく、現地の写真です。
ナブーの宮殿のロケ地となったカゼルタ宮殿の大階段。映画本編ではなく、現地の写真です。
写真:Livioandronico2013 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

旧三部作の傷だらけの宇宙船に慣れていると、ナブーの宮殿や磨かれた機体はずいぶん優雅に見えます。戦いが日常を覆い尽くす前には、こんな景色があった。その違いを、長い説明ではなく建物や衣装から感じられるのが面白いところです。

VFXのジョン・ノールによると、シードの街には精巧なミニチュアが使われ、屋外で太陽光を当てて撮影されました。一方、ポッドレースの地形では、模型の写真を3Dの地形に投影する方法を試しています。CGか実物かの二択ではなく、欲しい画面のために手段を組み合わせていたわけです。

宮殿のロケ地のひとつはイタリアのカゼルタ宮殿。柱が続き、窓から光が入る空間を見ていると、後の無機質な帝国の施設との隔たりも感じられます。きれいな背景として流してしまうには、少しもったいない場所です。

管理人
銀河の昔話なのに、「まだ壊れていない世界」の感じがあるのがいいです。立派な建物や美しい服を、ただ豪華に見せたいわけではない。その落ち着いた景色の中に不穏なものが入り込むから、ナブーを守りたい気持ちがちゃんと生まれます。

3. ダース・モール戦は、剣を振らない時間も目が離せない

両刃のライトセーバーが姿を現す場面には、台詞で説明しきれない威圧感があります。相手がどういう技を使うのか、こちらはまだ知らない。その段階から、戦う二人の姿勢が変わる。武器を構えるだけで、対決の空気が一気に張り詰めます。

とくに注目したいのは、戦いが一時的に遮られる時間です。クワイ=ガンは座って落ち着き、モールは動き続け、オビ=ワンは向こうへ行きたくても行けない。心の声を聞かなくても、座る、歩く、立ち尽くすという動きの違いから、それぞれの落ち着きや焦りが伝わってきます。

速い殺陣の合間に、何もできず待つ時間がある。その緩急が、決闘をただの技の見せ合いにしません。「強いジェダイを見られた」という興奮に、師弟の距離をめぐる感情が重なってきます。

管理人
誰もが同じように剣を振るうのではなく、待ち方まで違うのが忘れがたいです。オビ=ワンの焦りは、仕事でも日常でもある「分かっているのに手を出せない」感じに近い。そこがあるから、立ち回りの速さ以上に胸がざわつきます。

知ると見直したくなる豆知識・撮影秘話

骨組みのC-3POは、日本の文楽をヒントに動かした

ノールが参考にしたのは、黒衣の演者が人形を動かす日本の文楽でした。実物の人形を現場で操作し、演者を後からデジタルで消す方法を採用。人が中に入る着ぐるみでは難しい、骨組みがむき出しの姿を実現したのです。

制作資料:StarWars.com公式解説

ナブーの滝には、流れ落ちる「塩」の映像を使った

公式の制作トリビアでは、流れ落ちる塩を撮影した映像を取り込み、滝の水の質感に利用したと紹介されています。大きな滝に見せるために、水とは別の素材を使う。その意外な工夫を知ると、ナブーの風景を見直したくなります。

制作資料:StarWars.com公式解説

レースの岩山は、模型の写真を投影して作った

地形のテストでは、フォーム材や石膏で作った岩を撮影し、3Dの地形に写真を投影しました。実物の質感を残しながら、現実の空撮だけでは難しいスピードで移動するための工夫です。

制作資料:StarWars.com公式解説

カゼルタ宮殿の大階段にある獅子像。撮影地の建築資料として掲載。映画の場面写真ではありません。
カゼルタ宮殿の大階段にある獅子像。撮影地の建築資料として掲載。映画の場面写真ではありません。
写真:Livioandronico2013 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

ここからネタバレあり|結末・テーマの考察

クワイ=ガンを失い、アナキンを支えるはずの大人がいなくなる

クワイ=ガンの死は、強い味方が一人減るだけの出来事ではありません。アナキンの可能性を、組織の判断より先に信じた大人がいなくなる。少年を迎える環境そのものが変わります。

オビ=ワンは師の約束を引き継ぎます。ただ、それは準備万端の保護者として子どもを迎えるのとは違う。自分にとっても大切な師を失った直後に、少年を育てる責任を引き受ける。その危うい始まりを思うと、のちの師弟関係のすれ違いにも、単純に誰が悪いとは言いにくい余地が生まれます。

ナブーの勝利の陰で、パルパティーンが権力を手にする

ナブーは解放されますが、パルパティーンは混乱を足場に権力へ近づきます。目の前の危機を解決している間に、もっと大きなものが静かに動いていた。タイトルの「見えざる脅威」は、この勝ち負けのずれにも重なって見えます。

だから、ラストの祝祭を全部偽物として退ける必要もありません。そこにいる人々が助かったことは本当で、その喜びも本物です。目の前の幸福と、その先に待つ危うさが同時にある。解放を喜ぶ人々と、さらに力をつけたパルパティーン。両方が見えるからこそ、観直したときに祝祭の印象が変わります。

音と動きに注目すると、『ファントム・メナス』はもっと楽しい

最初からすべての政治用語を理解しようとせず、乗り物の音、街へ差す光、ジェダイの待ち方を追ってみる。それだけでも『ファントム・メナス』はずいぶん近づきやすくなります。大きな悲劇の序章である前に、少年が外の世界へ出ていく冒険として楽しめる一本です。

ほかのスター・ウォーズ作品も読む

同じシリーズの前後をたどると、人物の表情や台詞の受け止め方も変わります。初めて観る場合は、旧三部作の4→5→6、新三部作の1→2→3という公開順も選択肢です。

参考資料・出典

制作上の事実は公式資料を中心に照合し、作品の受け止め方を考える際に日本語レビューも参照しています。本文の解釈・管理人コメントは当サイトの批評であり、制作者の意図を断定するものではありません。