急いでいるときに限って、相手が自分のペースで動いてくれない。そんな場面で、つい声が大きくなったことはないでしょうか。『レインマン』の弟チャーリーは、まさにそのいら立ちを隠さない人です。
遺産をめぐって出会った兄弟が、車でアメリカを旅する。温かい話ではありますが、最初から仲のいい二人ではありません。兄の気持ちが急に分かるわけでもない。それでも、相手の都合を待つ時間が少しずつ増えていく。その変化を、ダスティン・ホフマンとトム・クルーズの演技で見せる映画です。
※前半は結末に触れずに紹介し、後半の考察ではネタバレを含みます。
あらすじ
高級車を扱うチャーリー・バビットは、疎遠だった父の死を知らされます。ところが、期待した遺産の大部分は、自分の知らない人物のために残されていました。その相手は、存在さえ知らなかった兄レイモンドです。
施設で暮らす兄に会ったチャーリーは、遺産を手に入れたい一心で彼を連れ出します。しかし、生活の順序や時間を大事にするレイモンドとは、何をするにもかみ合いません。飛行機での移動も難しくなり、二人は車でロサンゼルスを目指すことになります。
基本情報
| 作品名 | レインマン |
|---|---|
| 原題 | Rain Man |
| 製作年 | 1988年 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | バリー・レヴィンソン |
| 主な出演者 | ダスティン・ホフマン、トム・クルーズ、ヴァレリア・ゴリノ |
| ジャンル | ヒューマンドラマ/ロードムービー |
『レインマン』が不朽の名作といわれる理由3選
1. 旅が進まない時間に、兄弟の距離が見えてくる

食事の順番、テレビの時間、泊まる場所。チャーリーにとっては後回しにできることでも、レイモンドには切実です。弟が急げば急ぐほど、かえって先へ進めなくなる。このすれ違いが、旅のあちこちで繰り返されます。
チャーリーの言い分も、時間だけ見れば分からなくはないんです。でも、相手の不安を置き去りにしたまま予定を守ろうとするから、会話がぶつかる。映画は、何が正しいかを先に説明せず、同じ場面に二人を置いて、そのしんどさを見せます。
やがて弟の行動に、ほんの小さな配慮が混じり始めます。大げさな謝罪よりも、相手の習慣を覚え、予定を組み直す変化のほうがうれしい。長いドライブが、人に合わせる練習になっているんですよね。
2. ホフマンの名演と、それを受けるトム・クルーズ

落ちた爪楊枝の数を瞬時に把握する場面は、本作を代表する見どころです。けれど、驚くような能力だけを追っていると、二人のやり取りの大事な部分を見落としてしまいます。
レイモンドが話を繰り返すとき、チャーリーは最初、返事を待たずに先を急ぎます。同じような会話でも、後半には相手を見る間が生まれる。トム・クルーズの表情や声の調子が変わることで、兄との関係が変わったことが伝わります。
ホフマンの演技が強く印象に残る映画ですが、弟がそれをどう受け止めるかも同じくらい重要です。ずっと愛想のいい弟なら、ここまでの手応えはなかったはず。最初の感じの悪さを隠さないから、彼が人の顔を見て話すようになることに意味が出てきます。
3. 分かり合えた瞬間を、大げさにしすぎない

二人で踊る場面や、旅のなかで少しずつ気が合う時間が、この映画にはあります。大事件が解決したから喜ぶのではなく、同じ場所にいて、同じことをしてみる。その程度の出来事が、思った以上にうれしく感じられます。
それまで、同じ車に乗っていても、それぞれ別のことを求めていた二人です。だから、相手の反応を確かめながら動く姿が、単なる微笑ましい場面では終わらない。何でも言葉にして説明しないぶん、近づいた距離が見えるんです。
ただし、親しくなれば暮らしの難しさまで消えるわけではありません。そのことを忘れない映画だから、短い楽しい時間が軽くならない。仲よくなった証拠を、別人のような変化に求めないところに、この作品の温かさを感じます。
ここからネタバレあり|結末・テーマの考察
「レインマン」の意味が分かったあと、兄の見え方が変わる
幼いチャーリーの記憶にいた「レインマン」は、兄レイモンドでした。遺産の相手として突然現れた人が、自分の過去にもいた人になる。この気づきは、兄が便利な能力を持っていたこととは、全く違う重さがあります。
いまのチャーリーは自分の面倒で手いっぱいですが、かつては、自分も誰かに守られ、安心させてもらう側だった。その記憶が戻ることで、二人の関係を「世話をする弟と、される兄」だけでは見られなくなります。
ここがいいのは、兄に家族らしい振る舞いをさせて感動を作らないところです。変わるのは、過去を知った弟の受け取り方。相手に何かを証明してもらわなくても、こちらが知らなかった時間に気づくことで、関係が変わっていきます。
一緒に暮らすことだけが、家族の答えではない
終盤のチャーリーは、兄と離れたくないと望みます。最初の目的を知っているから、その気持ちの変化には胸を打たれます。でも、彼の希望が本物であることと、その生活が兄にとってよい環境になることは、同じではありません。
映画は、愛情が生まれたのだから何とかなる、とは言い切りません。兄自身の生活や支えを考える必要がある。その現実を残した結末だからこそ、弟が自分の望みを押し通すだけの人ではなくなったことも伝わります。
別れを、関係が元に戻ったこととは受け取りたくありません。二人には、一緒に過ごした時間が残ります。相手のすべてを変えなくても、前より気にかけられる。その変化を、映画はきちんと見せてくれました。
よくある疑問
実話の映画?
物語そのものはフィクションです。AFIの制作資料では、脚本家バリー・モローとキム・ピークとの出会いが着想の一つとされています。レイモンドとモデルとなった人物を、同一人物として説明するのは適切ではありません。
レイモンドの能力は、自閉症の人に共通する?
本作が描くのは、レイモンドという一人の登場人物です。彼の記憶力や行動を、現実の自閉症の人すべてに当てはめて見ることはできません。記事でも、作品内の人物描写と現実の人々を分けて扱っています。
おわりに
家族のつながりを、きれいごとだけで終わらせない映画なら『クレイマー、クレイマー』もおすすめです。人に頼ることや、気持ちを受け取る難しさを考えたくなったら『グッド・ウィル・ハンティング』もあわせてどうぞ。
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